暗譜の必要性③
譜面を見ているとき暗譜のときではどうしてパフォーマンスに大きな差があるのでしょうか。
これは、人間の脳内における五感の処理量と処理速度に関わっています。五感の中で楽器演奏において主に使われるは、視覚、聴覚、触覚です。そして人間の脳に入ってくる情報量は正確な数値は諸説ありますが、視覚が7~8割、聴覚が1割強、触覚は0.5割未満です。視覚情報の領域量からすると、聴覚情報の量はとても多いとはいえませんが、聴覚の方が視覚より速く脳へ伝達されるという特性があります。
音楽家のように聴覚を日常的によく使っていると細胞も増えますが、それでも足りない分は多くの場合、視覚の領域で補っています(「音が見えるという音楽家の脳ミソ」記事参照)。その点から楽譜を見ている時と暗譜の時では、視覚を見ることに使うか、聴くことや演奏する事に使うかが大きなポイントとなることがわかるでしょう。
視覚を楽譜を読むことに使わないことによって、より処理の速い聴覚が研ぎ澄まされ「音が聴けている」という状態になります。この音が聴けているという状態こそが、本来、演奏しているときに最も安心なことでリラックスして最大のパフォーマンスが出せるということに繋がっているのです。
人に届く演奏というのはミスなく弾くことではなく、緻密な分析と確かな理論の上に、情動(心)に訴えかけるパフォーマンスをすることです。そしてその情動に触れるためには、情動と連動した演奏をすること、つまり脳ミソからダイレクトに音楽が出てこなければなりません。暗譜演奏によって最大のパフォーマンスを出すことによって、より人に伝わる演奏となるのです。